(1)可能性を伸ばす
重症心身障害児(者)は、重い障害を背負っていても、どの人も皆な可能性を秘めた“世界でただ一人”の存在なのです。
“この子らを世の光に”とは、重症心身障害児の療育に先駆的に取り組まれた糸賀一雄先生の言葉です。人は通常は縦軸に伸びるが、重い障害を持った子ども達は、長い時間をかけて横軸に伸びていく・・・・・・
「横軸の発達」の発見
子どもが発達していく段階を見ると、1歳の子どもは2歳に、2歳が3歳にという形に、生まれてからの年月によって縦に、身体的にも精神的にも発達していきます。お母さんは、這えば立て、立てば歩めと祈り、期待し、努力されているわけです。
子ども達はたしかに伸びていきます。しかし重い障害を持った子どもは、普通の子のようには伸びません。そこにお母さん方の大きな悩みがあります。
「かけがえのない個性」形成
障害児の発達ということを考えるとき、容易ならざることだと思いました。その時に感じたのは、この人達は将来どうなるのだろう、私達はこの人達を育てて、末々どうなっていくのだろうということでした。
発達があまりにも遅く、何度教えても、いくら世話をしても、伸びないのです。伸びないままに体だけ大きくなっていくのです。
この悩みを、私達は長い年月味わってきたのですが、そのうちに、私達に希望のようなものを持たせてくれる光があることに気付きました。1歳が2歳、2歳が3歳と縦軸に伸びることを期待し、そういかないことに悩んでいたのですが、この人達は縦軸でなく横軸の中にこそ、発達の広がりがあることに気付いたのです。
ありとあらゆる発達段階のなかで、発達そのものはむしろ横の広がりが中身である、ということです。横の広がりとは、かけがえのないその人の個性です。他の何物をもっても代えることのできない個性が、あらゆる発達段階の中身をなしているということです。A子ちゃんはA子ちゃんなんだという個性が、1歳なら1歳のなかに、豊かにぐんぐんと形成されていく。
この豊かさを形成していくのが教育であり、療育なのです。療育とは、あらゆる発達段階の中にあって、その子がかけがえのない個性を形成していくプロセスであるといえます。
これは、重症心身障害児対策が私達に教えてくれた、おそらく最大の原理ではなかろうかと思います。そしてこの物事の本質ともいえる原理を、満1歳という状態が一生続くかもしれない、ぎりぎりの限界状態におかれている重症心身障害児が、その子を見守っている親や先生や医者や看護婦に気付かせたのです。
自前で光っている子ども達
私が「この子らを世の光に」と言ったのは、世の光として自前で生きている姿、太陽や星のように自分自身で光っているということです。重い子ども達は自分で光れないと考えられていたのですが、実は自分で光っていました。(中略)
毎日手のかかるこの人達は、私達に生命というものを教え、私達が堕落していくのに歯止めをかけてくれる人達です。この歯止めにこそ彼らの本当の存在理由があり、新しい社会形成の理念もそこにあります。 (糸賀一雄氏講演集より)